3年間、足が向かない居酒屋さんがありました。
厳密には行ってたんだけれど、その距離なら月に何度か行ってもいいほどの場所にあったのに、足を運ぶのは
「どうしても、他に店がない」
という時に限った半年に一回、といった具合。
たまたま半年に一回くらいのタイミングで行ったお店が3年前の、そのお店が好きだったころの店長に戻っていました。
お店も、その頃の良い雰囲気に戻っていました。
~ 目次 ~
あるとき、店長がいなくなった
ローカルながら数店舗あるチェーン店で自宅からほど近くにあったお店。特に親しく話す訳ではなかったけれど、メニューの工夫やお店の雰囲気作り、そつのない対応が好きだった店長がいたこともあって、足繁くというほどでも無いけれど「ちょっと飲むか」」という時に足を向けるお店があったんですよね。
あるときお店に行ってみたら、それまでバイト君だったような子が中心になって店を切り盛りしていうのに気づきました。
そして、カウンターにいた、目のぎょろっとした品のない客が、僕が好きだった店長の悪口を言ってる。「元バイト君」も、一緒になって悪口を言う、というところまではいかないものの相づちを打ってる。
なんだこれは。
その日は、追加注文を止めて、最初の注文だけで帰りました。
別の日にその店の前を通ったので覗いてみたら、あのとき見た、目のぎょろっとした品のない客がスタッフをやってる。
(え?そんな店になっちゃったの・・・?)
足が遠のいてしまったんですね。
どうしようも無いときにはいったけれど
割と酒が好きな僕は、どうしても深夜に一杯、外で酒を飲みたいということがあったりしたんです。
そんなとき、最後にビールや日本酒、焼き鳥や刺身を出してくれる店で営業をしていたのがくだんの店でした。
(しょうがないか・・・)
お酒を飲みたいはずなのに、事務的に飲みに行ったのを覚えています。
お店は、僕の基準では「ちょっとないな」と思うほど店員と客との境界線が壊れた、なれなれしい感じのする騒がしさが出てきてしまっていました。
(こりゃあ、いかん。)
月に何度か行っていたお店だったのに、2か月に1回、3か月に1回となり、ついには半年に1回となりました。
ジョッキのビールを我慢して、コンビニで缶ビールを買うほどにイヤになっていったのです。
食べ物も飲み物も決してまずくないのに、店の雰囲気がどんどん料理をまずくしていく。
そんな悲しい思いが積み重なっていったのです。半年に1度、行くか行かないかという頻度にまで減ってしまってから約2年、店長がいなくなってから約3年が経とうとしていました。
花束を見る
そんなある日、お店の前にいくつかの花束があるのを目にしました。新装開店のような花束。
見てみると店名がチェーン店のそれではなくなっていました。
ガラス張りのお店を覗いてみると、厨房に立っているのは3年前にいたあの店長。
(おお、あの店長じゃないか!)
さっそく僕がのれんをくぐったのは言うまでもありません。
独立
お店の雰囲気は3年前のそれになっていました。お客さんも明るく店長さんと仲が良いけれど、決して馴合いの雰囲気もなく、一つの良い場が出来ています。
確認はしなかったけれど、もしかしたら奥さんかも、という女性が手際よく店長をサポートしています。
出てきた料理は3年前のように気が利いており、残りの食材に応じて注文を良い感じにアレンジしてくれる機転の効き方。あの店長が戻ってきた!そう思える店に戻っていました。
「おかえりなさい」
そう発したのは言うまでもありません。
買取り
聞いてみると、チェーンの大本と交渉して、その店舗を買い取ったらしいのです。店内は居抜きでしたから、かつての慣れた配置で料理も出来ているのでしょう。
いやな店員もいなくなり、そこには気持ちよくお酒を飲める空間が戻ってきていました。
「買い取った関係でスタッフも二人になっちゃいましたが、改めましてよろしくおねがいします!」
そう言ってショップカードを僕にくれた店長の笑顔は、自分の城を持ったことへの喜びと自信に満ちあふれたもののように感じられます。
見切らないで良かった
世の中、何が変わるか分かりません。
気に入らないことがあると割とあっさり見切ってしまうのが現代の風潮でもありますが、それでも半年に1度はそのお店に行ったことが、再び好きな店長と会える幸運に巡り会えたとも言えます。
心の中ではそのお店を見切っていたけれど、完全に見切らないで良かった。半年に一回でも、行っておいて良かった。
いまとなってはそう思えます。
お酒はお酒や料理の味だけで飲む訳ではありません。店長さん、スタッフ、常連さん。あらゆる人がそのお店の味を決めていきます。
3年ぶりに「味」が良くなったそのお店に喜びを感じ、また通える店が出来たなぁという喜びを抱きつつ、そのお店を後にしたのでした。