オウンドメディアや企業Webサイトのブログ欄で執筆することがあります。立場としてはフリーライター・ブロガーなのですが、編集者の気持ちを理解したり編集者の考えを知ったりすることがライターの仕事に役立つはずだと考え、2019年9月2日に東京・渋谷で開催された
オウンドメディア「ブーム」終焉と、編集者たちの「その後」のキャリア vol.1
に参加してきました。
登壇されたのはモリジュンヤさん、鈴木悠平さん、寺倉そめひこさんと、海千山千のWebサイト構築・運営・編集者。
「オウンドメディアブームの終焉」というキャッチーでありながら何か違和感のある言葉の向こう側が見えてきたイベントでしたよ。
~ 目次 ~
オウンドメディアとの関わりを元にした3人の講演
はじめに行われたのはモリジュンヤさん、鈴木悠平さん、寺倉そめひこさんによる講演。自らの立ち位置から見た話を一人10分という短い持ち時間の中でお話してくれました。
モリジュンヤさん「オウンドメディアはなぜ閉じる?」
トップバッターはモリジュンヤさん。
冒頭で良い参考書籍となる「メディア化する企業はなぜ強いのか? 〜フリー、シェア、ソーシャルで利益をあげる新常識」をご紹介頂きました。
これは僕も読んだ良い本で、企業の情報発信に興味のある方はご一読すると良いかと思います。
「今まで発信出来なかったものが、自分たちでできるようになっていますよね」
と語るモリさん。
「継続して情報発信していくということは、やらない理由がありません」
と続けます。僕が抱いていたわずかな違和感の一つがこの言葉にありました。
今語られてるオウンドメディアって、まあ言ってみればブログ的なメディアのことだと思うんですよね。でも法人にとって可能な情報発信はブログ的なメディアに限りません。
例えばファッション関係や見た目がウリになっているグルメの企業であれば、ブログ系メディアよりもインスタグラムの方がマッチしているのかもしれません。
音楽をウリにしている企業であれば、何かしら音声配信サービスの方がマッチしているのかもしれません。
そのなかでブログ的メディアだけに固執することはないのかなあと考えました。
うーん、ライターとしては単に文章を書くだけではなく、違った見せ方もできるように経験を積んでおかないといけないなあ。それはもはやライターではないけれど、表現者として企業の期待に応えたい、という立ち位置であればそのスキルも大切だなと考えるに至りました。
続いてモリさんは「オウンドメディアがなぜ閉じるのか」という点について言及。
- メディアの目的が達成された
- 環境の変化
- 立ち上げ時の人員から変化があった
などの要因を解説しました。
「状態を嘆いていても仕方がありません」
というモリさんは
- 継続可能な体制を作る
- 再三が合うようにする
- プロトタイピングをする
- 企業内の担当者や外部編集者を含め、チームビルディングをしっかり行う
といったことを対応として挙げ締めくくりました。
「オウンドメディアは手段」そめひこさん
二番手は寺倉そめひこさん。ネットに多くの才を輩出した株式会社LIGに勤め、今はデジタルワーキングチーム「MOLTS」を率いて、事業成長のパートナーとなるエージェンシー事業や、出資して経営参画することでサービスや事業を拡大するハンズオン事業を推進しています。
「オウンドメディアブームは終焉したのか!?というテーマでの登壇を今回依頼されて、結構攻めたテーマだな!と思いましたよ」
と冒頭に語りました。
ネットに関する様々なことが未経験なまま2013年に入社したLIGでは
- Web経由の問い合わせ数を増やす
- 超ジャンプアップな売り上げを立てる
- オウンドメディアをグロースさせる
などのミッションをマネージャーとして与えられ、艱難辛苦の末に達成。
「オウンドメディアのグロースは流入経路事に増える特徴とコンテンツの相性、SNSと検索のバランス」
とまとめた上で
「オウンドメディアは企業や事業を成長させるための手段だった」
と語りました。
オウンドメディアで企業や事業に貢献しなければ生きていけませんでした、と自らの事業とオウンドメディアの関係を語るそめひこさん。
ブームという状態を傍から見ていましたけれど、何かメディアが終わる度に『オワコン』などと言われ、だったら何度もブームが終焉しているよね、とうんざりしている様子でした。
「今回は良い機会です。ブームという言葉で騒ぐのであればそろそろ終わりましょう」
と言い
「形や成果は変わったり変わらなかったりする側面があります。オウンドメディアの業界はどんどん広がっていく感覚があります」
と締めくくりました。
モリさんの所で感じた、オウンドメディアというものはブログ的メディアだけではないのだろうなあという感覚は、そめひこさんの最後の言葉「形や成果」からもにじみ出ているように感じられました。
「気がついたらメディアの立ち上げや運営にかかわっていた」鈴木悠平さん
トリは鈴木悠平さん。株式会社LITALICO社長室チーフエディターをしながらNPO法人soarの理事も勤めます。
発達が気になる子どもたちやその親御さんに向けたインターネットプラットフォームや学習支援教室、メディアの立ち上げを経験して、今は社長室でコーポレート関連の規格・編集・研究をしています。
「メディア業界から参入してきたというよりは、福祉の世界からトランスフォームしてきた感じです。ですから、ライターに向けた記事制作ポリシーを作るようなことから始めました」
メディアを運営していく傍ら、親御さん同士が情報共有しあうプラットフォームの構築も進めている中で、センシティブな医療情報に関する利用者どうしの言い争いにどう対処するか、などの安定した運営にも心を砕いていました。
そうした中でいち編集者とは異なり
「オウンドメディアの運営ではメディア自体の運営と収益化の両方を見ていました」
という鈴木さん、
「編集者はコンテンツやライターなどと長く付き合っていく中で思い入れがどんどん強くなっていきます」
という集中する視点と
「どういう運営ポリシーや組織を作っていくか。手段としてのメディア運営という見方もあります」
という引いた視点で見ることを語っていました。
現在は編集からは外れているそうですが、組織と文化を明文化するような仕事をしていく中で
「いろいろな人にユニバーサルに価値を届けていきたいんです。既存の一般向けサービスを適用させたり、研修の受注をしたりしていて『俺って何屋なのかな?(笑)』と思うことがあります」
と語ります。
うん、ここでも言外に、企業(法人・個人・自治体、全部おなじだと思う)の情報発信はブログメディアだけではないような印象を受けました。
パネルディスカッションでオウンドメディアを語る
3人の講演の後はパネルディスカッションと参加者からの質問に回答するコーナー。参加者からの質問はSlidoというリアルタイムな質問・意見受付サービスを活用して行われました。いやあこれ便利で。自分のイベントでも使おう。
領域が広がる編集者
インハウス(自社内・企業内)のエディターは、メディアの成長に応じて職務が広がっていきます。そもそもはメディアの運営でアサインされた人が領域拡張されて大きくなるというケースはありますよね。だからか、編集者の中には数字が苦手な人は少なからずいます。
Webの場合は(Google Analyticsで)数字が簡単にとれるものですから、それを分析できる人としっかりコミュニケーションを取ることも大切ですね
というお話がありました。
フリーのライターとしてはこういう領域に広がるケースがなかなかないんですよね…。
一方、編集者としては、企業や事業に貢献できることが求められていくことになるので、スコープの拡張を意識していかなければならないだろうとの事。
この言葉をライターとして噛みしめるなら
メディアのトンマナやスタンスを理解するとともに、そのメディアで編集者は母体となる企業や事業をどうしたいのか、という点を理解した上で、それに貢献できる文章を書けるようにならなければならない
ということなんだろうな、と。
その記事で数字が取れるかどうかまでは、多くのライターは保証することなんでできません。ある程度の保証できるのは多くのファンを持つごく一部の人気ライターだけで。でも、ライターとして編集部と目的を共有し、それに向かった執筆を行うことはできるはずなので、それに向けた研鑽はしていかないといけませんね。
編集者とPR・広報パーソンとの連携
僕が気になって質問したのは
「編集者は組織の広報やPRの人たちとどのように連携を取っていくのか?」
ということ。
「発信の統一感ではマーケティングや広報で役割が違うこともあり連携が取りにくいこともある。誰かが集約してくれるとありがたい」
というお話と
「それぞれの部門に発信の担い手がいる。その担当者同士は繋がっておくのは大切」
というお話が聞けました。
デジタルメディアにファン・読者が付きにくいのでは?
ほかの参加者の質問としては
「メディアとコミュニティについて。トラフィックを集めてもデジタルメディアにファン・読者層がつきにくくなっている。人が定着しているのはプラットフォームに対してであって、検索もSNSもパブリッシャーから見れば人が定着しないトラフィックソースになっている。」
というものがありました。
ここではそめひこさんから
「能動的にはいかないけれど『良質でおもしろいコンテンツを出すメディア』という印象を持っているメディアはありますよ。個人的にはデジタルメディアのファンは案外いるんじゃないかと思っています」
と回答。
「みんなこう言ってるよ」「Twitterではこうだよ」
といった意見って、その人のタイムライン(SNSだけでなく、広義でその人の人生で得て生き残った情報としてのタイムライン)に依存することが多いじゃないですか。それぞれ立場が異なりますから、それはそれでいいんです。ただ、どこを見て判断し戦略を立てるというのは大切なことだなあと感じました。
プラットフォームに対して人が定着していると判断するなら、オウンドメディアを特定プラットフォーム(例えばnoteやインスタとかですかね)で運営するのも手だろうし、地道にファンを定着できる力・予算があるのであれば自力で運営する、というのもアリなわけで。
いちライターとしてどこまで踏み込んでいくか
僕からはもう一つ質問をしました。
「ライターとしてオウンドメディアの執筆を依頼されることがあるが、メディアの運営側が編集経験に乏しいケースがありどこまで踏み込むか、あるいは坦々とお金をもらう仕事としてやるか悩ましい」
ということ。本当はイベントテーマとは違うのですが、せっかく参加してそのときに挙手をする人がいなかったので、これは言ったモン勝ちだろうなと。
そこではそめひこさんから
「どんどん踏み込んだらいいと思いますよ!」
モリさんからは
「新しい領域だと思ったら別に見積もりも用意することも忘れずに!」
というありがたいアドバイスも頂けました。
まあ、なんだかんだ会社員を辞めてフリーランスになって7年くらいは経とうかとしています。ライターとしてもサイトの運営をする立場としても僕の力でお役に立てるところにはぜひご協力させていただきたいので、
メディアの書き手・運営にお悩みのある方はぜひご相談ください!僕のツイッターはDM公開してます
とここで宣言しておきます。
編集という職能
まとめとして語られたこと。
「どうやって届けていくか。その展開を意識してコンテンツを創って行く。それが編集という職能の価値の出し方ですよね」
という編集者とは、という話で終わったイベントでした。
- 企業が自ら情報を発信していく流れは止まらない
- どのような手段で情報を発信していくのか、はそれぞれのあり方によって異なる
- メディアの成長で編集者は領域が広がる
の3点が今回のイベントで自分が持ち帰ったところであり、それに加えて編集者に対してもライターの意見とアドバイスはうざがられないように上手にやっていこう、という意識を持つようしようと。
編集者イベントだから企業の情報発信の手段としてのオウンドメディアを中心に「企業自らの情報発信」を語ったイベントなわけで、ライターとしての目線ではそこを知ることが目的であり大切。
一方、僕の別の側面であるブロガーであり、企業のPRに協力する立場としては、企業の情報発信はブログ的Webメディアだけではないということも見えてきて、そこに対して協力することもいろいろできるのだろうなあ、という視野が開けてきたようにも感じ増す。
ライターのためのライターイベントに出るのも楽しいのですが、ライターと密接した編集者という立場の人が何を考え、何を感じ、何を目指しているのかをくみ取れるイベントに参加することは、非常に役立つものだなあと感じた2時間。こうしたイベントにはまた参加していきたいものです。