新型コロナウィルス禍において、様々な業態で事業継続のためのクラウドファンディングを行っている例を見る。クラウドファンディングとは新製品の開発や世の中を良くする行動、事業継続などのために自分たちの行動をプレゼンテーションし、賛同者を集めて支援してもらうインターネットの仕組み。
飲食店のクラウドファンディングも数多く、お店を支えるファンや、一度は行ってみたいと思っている潜在顧客などから支えられている事例も少なくない。
まあ、客が一方的にお店を支えているわけじゃない。お店が続くことによって、そこを訪れる人たちの心や健康だって支えられていることもある。
そう思っているぼくは、割とシンプルに
困っているお店はクラウドファンディングやればいいのにな
と考えていた。でもとあるご店主と話したときに、必ずしもそうとは限らないということを痛感したのだった。
~ 目次 ~
いいんじゃない?
カウンター越しに店主と話をしていた。左手には福島の銘酒・ロ万(ろまん)。右手ではそこにある食材で作ってもらった、キノコを中心とした炒め物。組み合わせとかマリアージュとか気にする人は気にするが、美味いものを食えば美味いし、美味い酒を飲めば美味い。
酒と肴を楽しみながらお客さんの入り方やスタッフのシフトの話なんかを聞き、クラウドファンディングの話を振ってみた。成功しているところは単なる売り上げの前借りだけではなく、将来のお客さん・今のお客さんが楽しくなりそうなリターンを提供している。
「そんなことをやってみるのも良いんじゃない?」
酒飲みが酒の合間に聞いた話だ。そこまでシリアスにお店の売り上げや経営についてご意見申し上げたわけじゃない。軽く言った言葉だった。でも、店主はとても丁寧に気持ちを教えてくれた。
以下の会話は、まあ酒の上での記憶。言い回しは違うかもしれないが、その時に僕が横っ面を殴られたような記憶はそのまま文章にしているつもり。
できないよ。
そういう気持ちを持っている人がいるのは分かる。だってそうでしょ、普段は飲食でお店にお金を支払っているお客さんからお金をさらに頂く構図になってしまうんだもの。
そうじゃなかった。
「いや、常連さんに助けて頂くというのであれば遠慮無く助けて頂きますよ。でもクラウドファンディングはお店に来たことない人、クラウドファンディングきっかけで来店してみようかな、という人がご支援してくれるわけじゃない。」
まあそうだ。コロナ前は混み合う立ち呑み店だったし、コロナで自粛や営業時間短縮要請が出ていた間も、そのルールの中でお客さんが入っている。
「自粛が明けても三密を避ける、なんてことをやらなければならない以上、お店の外でお待ち頂くお客様や、せっかくご来店頂いたのにお帰り願うお客さんも出てくる可能性があるわけね。」
だね。僕もこの店に来ようと思って店の前まで来たけど、大混雑でそのままきびすを返したことが何度もある。混んでる人気店だって分かってるから文句なんて何もないけれど。
「でね。そういう時って、いつもお越し頂いている方だったら『ごめんね』って言いやすいのよ。むしろ、ウチに来ることを願ってクラファンで支援してくれて、せっかくご来店頂いたのに満席で入店させずにお返しするような風になってごらんよ。申し訳なくてたまらないよ。」
なるほど。会話をする前に考えていたことと全然違ったな。このお店、忙しい時に一見さんや馴染みのないお客さんに手厚く接し、常連をほどよくあしらうのが上手い。距離感の取り方が本当に上手いんだ。
そういうお店の店主が『申し訳ない』という言葉は、やっぱり馴染みの無いお客さん・将来のお客さん候補に向けての言葉だった。
「楽しみにしてくださったお客様を入店させずにお返しするような可能性があるなら、銀行なんかから融資してもらったほうがなんぼもマシだよ。」
うん、納得するよね。
野暮の骨頂
念のため言っておくけれど、というのも野暮の骨頂だけれど、クラウドファンディングをしている店が良くないだなんてこれっぽっちも思っていない。ファンにもファン候補の人にも遠慮なく支えてもらって良いと思う。それがクラウドファンディングだ、とも思う。
でもこの店主の、馴染み度に応じた考え方の違いは多いに首肯するところがあった。普段ぼくがこの店主にお客らしからぬ軽い扱いを受けることがあるけれど、それは僕がイラッとしない所を突いてくる観察眼の良さもあるし、そう混んでないとき、食材がちょっと余っちゃったとき、閉店時間の後にも居残りさせてもらったときなんかに、良い思いを何度もさせていただいている。
そういうメリハリの付け方が料理や酒の良さと同じレベルで上手いこの店の、店主のクラウドファンディングに対する考え方は
「そんなことをやってみるのも良いんじゃない?」
と無邪気に思っていた僕をちょっとだけオトナに引き上げてくれたような気がする。
また、飲みに行こう。
2,3杯で帰ろうとすると
「ね?何帰ろうとしているの?」
って言われちゃうこの店に。