大好きなマンガ「さよなら私のクラマー」が2020年12月で最終回を迎えました。随所に心に残る言葉や名シーンを生み出しながらも、決して名言のバーゲンセールのような安っぽいものではない今作は、2020年に引き込まれた作品のトップクラスでした。高校の女子サッカーを取り巻く環境や選手の葛藤、監督の成長まで描いていて、これからもっと面白くなりそうなところが予定の終着点だったという、著者の新川直司さんの美学を感じさせられた終幕です。
蕨青南高校の恩田・周防・曽志崎を主人公とする本作の最終話は、前にスコア以上の実力差を見せつけられて敗れた埼玉県の絶対王者・浦和邦成高校との県大会決勝戦。前に敗れた相手との再戦という状況ながら関東大会への出場はすでに決めており、100%のモチベーションをもって戦うには何か一つ足りない状況でした。
そこで試合前、選手を集めて激を飛ばす深津監督のカツ入れ。
「フットボールの試合に敗者はいない。いるのは…」
この後に続いた言葉が、深く刺さる一言でした。
※この記事には「さよなら私のクラマー」最終回に対する多少のネタバレがあります。気になる方は読み飛ばしてください。
~ 目次 ~
フットボールの試合に敗者はいない
「フットボールの試合に敗者はいない」と語る深津監督はあおむけにした拳から人差し指を一本立て、
「いるのは勝者と リベンジャーだ」
と語ります。そして
「浦和邦成の長期政権も必ず終わる お前たちが今日終わらせる」
「勝つぞ 勝ってタイトルホルダーとして関東大会へ乗り込む」
と続けるのです。
勝者とリベンジャー。大切な勝負を落とした人に対して声をかけるとしたら、なんて前を向かせる力強い言葉なんでしょう。負けた時にあきらめてしまったらそれで終わりですが、次の勝ちを目指して再起する人たちは決して敗者ではなく、リベンジャーなんですね。
さわやかに使われる日本の「リベンジ」
リベンジとは本来復讐を意味する言葉ですが、日本では一度敗れた相手を見返す意味でつかわれることが多くあります。本来の意味よりもさわやかな、前向きな印象を与えるように感じます。
僕の記憶では、こうした「リベンジ」が定着したのは、プロ野球の松坂大輔選手の言葉がきっかけと思っています。
それ以前でも格闘技興行ではよく使われていた言葉でしたが、プロデビュー年となった1999年の4月、ロッテ相手に敗れた松坂投手は
「リベンジします」
と宣言。およそ一週間後の同カードで、松坂選手は高卒新人でありながらプロ初完封勝利を成し遂げました。この年、松坂選手は16勝を挙げて最多勝、同時に新人王・ベストナイン・ゴールデングラブ賞も受賞し「怪物」のニックネームにふさわしい活躍を見せました。
この年、弱冠18歳・高校を卒業して1か月も経たない少年が口にしたリベンジという言葉は流行語大賞にも選ばれました。
やられた相手に正々堂々とやり返す。このリベンジという言葉を深津監督が使ったのです。
(言葉として知ったのは、1982年に発売された4×4×4のルービックキューブ『ルービックリベンジ』が最初かも)
努力して一度負けた相手に挑む
一度敗れた相手に努力して勝つ。
これは、日本の少年漫画では欠かせない要素であると言えます。
巨人の星の星飛雄馬は、生涯のライバル・花形満と打たれたり押さえたりを繰り返しています。
キャプテン翼の大空翼は、小学校の全国大会で敗れた日向小次郎に、その後は負けていません。
柔道部物語の三五十五は、完敗した西野を相手に高校3年の夏の大会でやり返しました。
ピンポンのペコも、ちはやふるの千早も、黒子のバスケの黒子も、ドラゴンボールの孫悟空も、タッチの上杉達也も、みんな負けて努力して勝つわけです。
さよなら私のクラマーももちろんそうで、浦和に負けた蕨青南は様々な経験を経て再戦のチャンスをつかみました。そこで、関東大会の出場を決めたチームに対して最後のカツを入れる深津監督の一言、少年漫画によくある展開ではありながら、言葉の響きが素晴らしかった。
なにかに負けたとき、後れを取ったとき、その瞬間から僕らは敗者ではなくリベンジャーになるんだなと。そう考えたら落ち込む暇なんてないなあって考えられませんかね?
最終回までこんな思いをさせてくれた「さよなら私のクラマー」、最終回は寂しすぎる。軽くロスになりそうです。
2021年4月に映画化・アニメ化が待っています。そこまでどうやって盛り上がりを維持するか、仕掛ける側の工夫を楽しみにしながら待つことにします。