落合博満・イチロー・工藤公康・新井貴浩。これらプロ野球選手の共通点、わかりますか?それは、
「ドラフト3位以下で入団したにもかかわらず、その年にドラフトで入団した選手の中で最も活躍した選手」
であることです。
「野球部に花束を」「べー革」などなど、主にアマチュアを題材にした作品がとにかく面白い漫画家・クロマツテツロウさんがグランドジャンプに連載中の作品「ドラフトキング」がWOWOWで2023年春から放送されることがきまりました。
ドラフトを軸に、スカウトマンがどのように無名の有望選手を発掘するか、また契約への道のり、あまり知られていない入団後の選手のサポートを描くなど、ほかの野球漫画と一線を画す「ドラフトキング」の面白さをお伝えします。
~ 目次 ~
プロ野球のスカウトとスカウト対象の選手の人間ドラマ
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プロ野球のドラフト制度は参加球団の戦力均衡のために導入されたものですが、人を扱うものでもあるからこそ様々な課題があり、悲喜こもごものドラマがありました。ルールも変化しており、時代時代で様々なドラマ(トラブル)が生み出されました。
僕の印象に残っているだけでも、
- 空白の一日(江川卓選手)
- 裏金事件(選手名は伏せます)
- 巨人による桑田投手単独指名
- 北海道日本ハムが大谷選手を指名した際のプレゼンテーション
などなど、様々な話題がありました。
野球ドラマでありながら人間ドラマであるこの作品は、魅力たっぷりな登場人物を語らずにはいられません。
本作の主な登場人物は以下の通りです。
- 鄕原 眼力(ごうはら おーら):主人公。資金は決して潤沢でない「横浜ベイゴールズ」の単年契約スカウトマン。作中の表記からおそらくプロ野球選手経験はない。アマチュア野球の指導者に「傲慢で自信過剰で自分勝手でウソつきで目的のためなら手段を選ばんクソヤローだが選手の才能や可能性を殺すようなことだけは「絶対にせん」と評価されている
- 神木:プロ選手を5年で引退し、自力でベイゴールズのスカウトマンになった。鄕原にはコケにされているがスカウトとして修行中。主力キャラクターのはずが、下の名前が分からない
- 下部 陸夫(しもべ りくお):スカウト部長。鄕原にいいように丸め込まれているイメージ
- 大越 智成(おおこし ともなり):スカウト部 主任。鄕原と折り合いが悪い
- 飯塚 健(いいづか けん):スカウトマン(単年契約) プロ野球選手を15年経験。チャラいオヤジだが見る目は確か
^ 毒島:大阪ホワイトタイガースの超一流スカウト。鄕原のライバル
ベイゴールズのスカウト陣、とりわけ鄕原がどのような選手に目をつけ、サポートするか。そして、目をつけた選手をどのようにチームのドラフト関係者に納得させるか。こうしたあたりが物語の骨子になってきます。
ここから先は若干のネタバレも含まれます。気にならない人だけ進んでください。
アマ・プロの境目のドラマが熱い
この作品では、プロのエースやスラッガーは出てきません。鄕原らとドラマを描く人々は、プロを目指す(目指した)アマチュアや、プロでもルーキーや引退間際・契約更新されなかった選手です。
敏腕スカウトの鄕原は、どのようなルートを持っているかはわかりませんが、全国に目をつけた選手がいます。それも各チームのプロ注目選手だけでなく、鄕原独自の眼鏡にかなった選手が多数含まれているのです。その目の付け方が面白い。
エースと大きな力量差がある2番手投手プッシュの訳
1巻では、春のセンバツベスト8の実績がある花崎徳丸高校のエース・東条がスカウト陣の注目を集めます。東条はMAX150Km/hを超すストレートと複数の変化球を操るプロ注目投手で、ドラフトでは競合も想定される選手です。
が、鄕原は2番手投手の桂木康生を猛プッシュ。プッシュした時点ではストレートはMAX150Km/h程度、東条を休ませるための登板でも大崩れこそしないものの少しずつ失点する投手で、他のスカウト陣はドラフトに値しないD評価でした。
夏の甲子園も終わり、大活躍を見せた東条と、そこそこの活躍を見せる桂木。その後、秋のドラフトを見据えて行なわれたスカウト会議で鄕原は、桂木の猛プッシュと、その根拠をついにプレゼンします。そのプレゼンが実り、桂木はベイゴールズが4位指名、東条は競合をさけたため他チームにドラフトされました。
「桂木編」の最後には後日談があり、5年後のオールスターで東条と桂木がT・K対決として素プー津市の一面を飾っている様子が見られます。
桂木の指名の理由や選手としての素質は、是非漫画を読んでいただきたいです。
高校通算本塁打0の9番ショートが必要な理由
4巻から6巻では、ちょっと長いシリーズが展開されます。沖縄の中堅校で野球をするエースと9番打者の物語です。エースの怪我を巡るベイゴールズのサポートも本作らしさが満開で面白いのですが、個人的にぐっときたのは9番ショート・照屋にまつわるものでした。
「野球にも座学が必要なんだ」
と語る鄕原は、野球頭が抜群の照屋に早くから目をつけていました。高校最後の大会を迎えるまで、本塁打0の男です。作中での活躍まず描かれたのは、投手の足下を抜くゴロを、良いポジションで守っていたからショートゴロとして処理出来た守備のケースと、一塁手側へ上手に転がしたセーフティーバントでした。
そうしたところからも
「超絶に地味」
「指名にこぎつけるのが大変」
と、現実的な困難も描かれています。それはそうですよね。ドラフトって基本が6人くらいの指名ですから。
物語はここから、エースの怪我、エースの両親の説得、大学進学との綱引きを絡めながら夏の大会に向かっていきます。
夏の県大会決勝で甲子園の常連校と対戦した際に、エースと照屋はどのような結果を残すのか、そしてドラフトで指名があるのか。
滋味ながら読み進めていてわくわくの止まらないドラマでした。
なお、鄕原のセリフにある「野球には座学が必要だ」は、クロマツテツロウ氏の別作品「べー革」で主要テーマとして扱われています。これも現在進行形で面白い高校野球漫画ですので、ぜひご一読をお勧めします。
プロ・アマ選手の挫折・受け入れも描かれるリアルドラマ
作品中に出てくる選手は、成功者だけではありません。プロに入れなかった選手、高校の野球部になじめず退学した選手、プロを首になって第二の野球人生を探している選手、様々な選手が登場し、それぞれのスカウトとの関係性が描かれます。挫折することも、挫折したことも受け入れることも描いているため、奥深さが際立ちます。
普通の高校野球漫画であれば、高校を退学するってまず描かれないじゃないですか。
スカウトから「プロ入りは辞めとけ」って言われるアマチュア選手の物語って描かれないじゃないですか。
そうした内容がリアルに描かれるからこそ、ドラフトキングの読み応えが抜群なんです。
スカウトが選手の育成以外に何をしているのか、その片鱗が分かります。と同時に、選手やその関係者を取り巻く人間ドラマも面白い作品です。あっという間に読み進めてしまうのではないでしょうか。
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