運営論

ステルスマーケティングに加担しない情報発信者の対応とは

本記事には広告のリンクが含まれます。ご了承ください

2022年12月27日に消費者庁は「第8回ステルスマーケティングに関する検討会」を開き、その報告書が公開されました。報告書ではインターネット広告市場の拡大や消費者のSNS利用率の向上が述べられた上で、ステルスマーケティングに対する景品表示法による規制の必要姓が議論の対象となっています。

ブログだけでなく、インスタグラムやYouTube・TikTokなど、企業がインフルエンサーと共同で、ネット上で製品をPRする手段は増えています。そうした時勢でPRの協力依頼を受けた情報発信者側が気をつけなければならない点を、この報告書から読み取って行きたいと思います。

情報発信者とステルスマーケティング


ステルスマーケティングとは広告主が広告であることを隠したまま宣伝するなどの行為をすることです。商品やサービスを紹介したい企業、あるいは企業から依頼を受けたPR会社が、ブロガーやインスタグラマー、YouTuberに

  • 製品・サービスの紹介(多くは無償提供)
  • 製品・サービスを褒めてもらう
  • 積極的に拡散してもらう
  • 金銭の授受が発生することも

といった情報発信を、提供されたこと・紹介の依頼をしたことを伏せた状態で依頼し、情報発信者が受注したときに発生します。

「ステルス」という名前がついているだけに、うまくいけば広告的な行為であることが見破られず、製品・サービスを印象良く拡散してもらうことに成功します。これは優良誤認や詐欺行為にも繋がります。

依頼を受けてのコンテンツだったのに隠している、ということが観る側にばれてしまうと、その企業・製品やサービス・情報発信者の三方が「ズルに加担する人たち」というレッテルを貼られます。情報発信者がステルスマーケティングの知識がないままホイホイ企業案件を受けると、知らず知らず加担してしまうことにもなりかねません。

以下、ステルスマーケティングという文字数が多いので僕の本文中では「ステマ」と表記を短縮します。

ステマは実際に行なわれている

ステマは実際に行なわれています。今回の資料の10ページにも、

、41%(123 人)のインフルエンサーが、「これまでに、あなたはステルスマーケティングを広告主から依頼された経験はありますか。」との質問に「はい」と回答した。

とあり、依頼された経験のあるインフルエンサーの45%が全部受けた・一部受けたと回答しています。なぜやってしまうかと言えば、大きくは

  • ステマに対する知識がないこと(悪いと思わない、悪いと思ってるけどPR会社が悪い、など)
  • 言われたとおりに作業すれば(ぱっと見)クライアントもファンも満足すること
  • 労せずしてお金が入ること
  • クライアントの言い分を受ければ、続けてサービスや製品を享受できるメリットが続くこと
  • PRといった表記や関係性の明示が無ければ離脱する読者が増えないだろいうという期待

などが挙げられるでしょう。こうしたメリットも同資料の12ページに記述されています。

2019年に話題になったのは人気映画『アナと雪の女王2』の感想を複数の漫画家にツイートしてもらった件が、ウォルト・ディズニー・ジャパンから依頼された内容でありながら、その事実やPRである旨の記載がなかったものです。

僕の記憶ですが、ほぼ同時刻に複数の漫画家によるツイートがされたことで疑問の声が上がり、騒動になったもので、同社も謝罪のリリースを出すに至っています。

「『アナと雪の女王2』感想漫画企画」に関するお詫び|企業情報|ディズニー公式

古くは芸能人によるペニーオークションの件、人気グルメレビュアーにおける口コミ高評価の優遇の件などもあります。話題になっている事件が複数上がっているということは、規模の小さなものはもっとたくさんあっても良いでしょう。

かばうわけではありませんが、インフルエンサーはステルスマーケティングの講義を受け単位を取得して名乗るものではありません。自分の好きな投稿を続けているうちに自然になってしまった、という経緯の人が少なくないはずです。

炎上系や人をだますことを目的にオンラインでの影響力を高めようとしている人以外の情報発信者は、基本的に自分の投稿をコツコツ改善し、投稿を繰り返すことでインフルエンサーと呼ばれる域にたどり着きます。確たる教育制度・資格制度・法律がない以上、ステマ問題を起こしたインフルエンサー(情報発信者)に「インフルエンサーのくせにステマもしらないの?」と一方的に断罪することは、究極的には無理責めになるのではないでしょうか。

影響力を持つようになった際、自然に覚えるのか、または発信者を管理する事務所に入って教えられるのか、そうした経緯に期待するしかないのでは、ちょっと追いついていない世の中になっていると言えそうです。

だからこそ官民(言い方が堅苦しいけど)様々な立場から、ステマが良くないこと。日本以外では多くが法制度化されていて問題になっていることを伝えて行かなければいけないのだと思います。

現実的な対応

社会的な意義や経済的な損失などは資料をよく読んでほしいです。現実的に情報発信者・インフルエンサーが企業から依頼を受けた際にどのように確認・対応しておけば良いのかの一例を挙げ、予期せぬステマに加担しないための防御策をお伝えします。

以下の対応例は、実際に企業からPR依頼を受けたインフルエンサーが僕に相談してきたケース・僕の元に製品・サービスの提供者やPR会社が依頼してきたケースで、僕が確認をしたことを元にしています。

なお、僕は自分のブログで、依頼していただく側に向けたメッセージを2記事書いています。

ADとPRの表記について

自分のブログの【PR】【AD】表記について考え方を整理した | 明日やります

こちらもご覧下さい。

以下、情報発信者側が確認すべき内容です。

1 依頼であることを確認する


まず企業からの依頼の中にブログ・YouTube・インスタグラム・TikTokなど情報発信者が運営しているメディアに商品やサービスの紹介を依頼する文章が入っているかどうかを確認します。

PR企業、その向こうの製品やサービスの提供者(以下、提供者と省略します)に関わらず、製品・サービスの紹介を依頼されたかどうかがポイントです。無料でサービスを受けたけれど情報発信を依頼されていないケース(街頭でサンプル製品を配られていたようなケースはそれに当たります)をどのように紹介しても、情報発信者の自発的な紹介であり、ステマにはなりませんから。

2 関係性の明示について触れられていることを確認する


依頼文の中に「関係性を明示してください」「#PRのハッシュタグをつけてください」「弊社(または提供者名)からサービスを受けた旨を明示してください」など、提供者・PR会社と情報発信者の関係をメディアにきちんと書くことが指示されているかどうかを確認してください。

依頼されたけれど関係性の明示がない場合、ステマとして認識される状態になってしまいます。

が、この時点で依頼者やPR会社がステマについてまったく知識がない場合があります。このタイミングで情報発信者側から

「関係性の明示はいかがしましょうか?」

と訊ねることで、先方のスタンスが分かります。

  • 「関係性の明示ってなんですか?」と聞かれれば無知
  • 「関係性の明示はして構いませんがタイトルにPRと書かないでください」と返されるなら、黒に近いグレー
  • 「関係性の明示はしないでください」と返されるなら明らかなステマ依頼

こんな感じです。無知の場合は教えてあげて、関係性の明示をしても良いなら受けても大丈夫かもしれません。企業から直接依頼されたケースで関係性の明示を知らないのは仕方ない部分もありますが、このご時世に関係性の明示を知らないPR会社は、企業の質的に怖い部分がありますので、他でトラブルが起こる可能性を捨てきれませんが。

タイトルにPRの文言をいれるのを嫌がるのは、想像ですがSNSで拡散される際にPRコンテンツであることが目立つからなのかな、と思っています。想像ですけれど。

明らかなステマ依頼・グレーな依頼に応じるならば、その情報発信者はステマに加担したことになります。バレた後に情報発信者も、提供者も、PR企業もダメージを受けることを覚悟して受けるか、断るかを考えてください。もし僕が相談されたら「そんなの受けちゃダメだよ」と一蹴します。

プラットフォームの指示に従う


Instagram・YouTube・TikTok、それぞれのプラットフォームで、製品やサービスの提供を受けた場合の対処方法があります。関連する投稿をする際にはそうした処理を忘れないことです。

Twitterやブログでは、そうした対応を利用者自身で判断して行ないます。
WOMマーケティング協議会のWOMJガイドライン
はどのような表記を入れれば良いかの参考になります。目を通しておいて損はありません。

金銭の授受はどのように考えたら良いか

依頼を受けた際、メディアの掲載条件として金銭の支払いが発生するケースがあります。現時点での僕の理解ですが、ステマになるかどうかの要件としては

  • 宣伝になり得る文章の執筆を依頼された
  • 製品・サービスを提供されたことを隠した

ことだと思っています。依頼されたサービスや商品を体験できないまま金銭の発生だけが起こるケースをみたことがないため、基本的に金銭の授受とステマかどうかは問題にならない(それ以前に依頼があり、製品・サービスの提供を受けているから)と考えています。

金銭の授受以前に、依頼を受けて執筆したものを、それと分からないように書くこと自体が問題であることが、順序としては先です。

もっとも、金銭を頂く時点で多くはコンテンツ制作を依頼されたものと同義でしょう。

「ホームページなどを見て関係性の明示なく我が社(の製品・サービス)が凄いと書いてくれたらお金を払います」

という依頼はどうでしょうか。こうした依頼が来たことがありませんが、これはアウトだと思います。サービスこそ受けてはいませんが、金銭の授受が執筆の条件になっていますので、PRというよりは記事広告のステルス的な扱いになってくるように思います。

一般的なPRの案件ではこうしたケースはほとんどない(商品・サービスの提供がある)ものです。
この例はマーケティング行為の中でのズルではなく、広告行為の中での「ズル」になるかな、という印象であり、これは断るべき内容だと思います。

コンテンツの投稿のもっと細かい所を知りたい、という場合、WOMマーケティング協議会のWOMJガイドラインを読んでおくと良いでしょう。

法制度が整う歳にはこうした団体の活動内容は参考にされると思います。多少の修正は入るかもしれませんが、現時点で真剣に、信頼できる取組をしている団体の提示を参考にすることは良いことですし、将来の修正が減ることになります。

ステマにならない例

商品やサービスを頂いて情報発信しても、ステマにならない例はあります。主に「情報発信を依頼されていない提供」によるものです。

よくある例としては、懸賞の当選があります。応募要件に「SNSなどでの情報発信」というものがなければ、それは当選したらそのまま頂けば良いだけです。ブログや動画で情報発信した場合は、あくまで情報発信者が自発的に行なったものになりますので、関係性の明示をしなくてもステマにはなりません。

僕も、バイクを販売している企業からバイクを無償でお借りしたことがありましたが、それはブログ執筆を条件にしたものではありませんでした。従って、お借りしたバイクのツーリング記などで、PRなどの文言をつけませんでした。

ただし、ここに書いたのは「ステマになるかならないか」の観点に過ぎません。読者・視聴者の信頼性を高めるという観点でいえば

「○○に当選して頂いたので使ってみました」

などど書くと、入手状況が分かることでコンテンツの信頼性が一段高まることになるのではないでしょうか。実際に僕も、上記のお借りしたバイクのツーリング記では「バイクをお借りしました」などの関係性は記述しています。

観ている人には伝わり難い


2023年時点の日本は、まだまだステマに対する認識が高くありません。例えば、PRと明記し、関係性を明示しても、

「依頼されて書いてるなんてステマだ」

というSNSの投稿をみたことがあります。んな無茶な、って話です。ステマは悪いことですが、企業の依頼でコンテンツを制作することは悪いことではありませんからね。

何でもかんでもアフィリエイトを貼りまくる、いわゆる「アフィカス」に対して「ステマ」と怒っている人もいます。嫌いな感情は一定の理解を示せますが、怒る方向性を間違えてはいけません。

たまたま訪れたラーメン店が美味しかったためにインフルエンサーがSNSに投稿する際に「これは企業案件ではありません」などと、わざわざ自発的に投稿したことを明記する自衛策を、なんども観たことがあります。

かなり本末転倒感がありますよね。

このような誤解は「したい人は勝手にすれば良い」か「誤解を減らせるよう可能な限りていねいに説明すべき」かで対応が分かれます。 現時点では、これは個々の情報発信者が決めることかと思います。

ステマの法制度が確立していない時点では、こうした自衛で気を遣う人が出てくるのも仕方のないことです。

企業側・発信側・読み手の3方向から確認できる法制度の整備を


自助努力で状況を良くできるという時代ではなくなったように思います。

そもそも企業がステマを行なわないよう、行なった企業は悪いことをしたとされること。

情報発信者が悪いことに加担しないよう、また、悪いことであることを認識できること。

コンテンツを消費する人たちが知識的に、感情的に正しく商品の情報を得られること。

こうした面をクリアした形での法制度が整えば良いなと思っています。

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