野球

日本ハムが花巻東高校・大谷選手を説得する際に使った資料が公開されて目を通し、プレゼンの本質と情熱を知った

2012/12/16

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日本の日付で2023年3月23日、WBCの決勝で大谷翔平選手は試合を締める9回のマウンドに1点リードの状況で登板し、ランナーを一人出したものの後続を断ち、WBCの胴上げ投手となりました。最後の打者はいま所属するロサンゼルス・エンゼルスの同僚、マイク・トラウト選手で、野球マンガを超える最高のシチュエーションに、世界中のファンが対決を見守りました。

当然ながらこの大会でも唯一の二刀流として登場し、WBCでも「大谷ルール」が認められ、投手とDHで大車輪の活躍を見せました。二刀流で世界を席巻したことがMVP獲得の理由だと思います。となれば当然、二刀流を認めて育て続けてきた日本プロ野球のキャリアが良い方向に影響していたからこその受賞なのではないでしょうか。

大谷選手は花巻東高校の投手だったころからメジャー志向があったと聞いています。その大谷選手のドラフト指名権を獲得した北海道日本ハムファイターズは、説得のために「日本でキャリアスタートさせることのメリット」を彼にプレゼンし、入団を決意させたんですよね。

見出しの後は、2012年のドラフトの少し後、日本ハムが大谷選手の獲得に成功した際に使用したプレゼンテーション資料が公開されていた際に記したものです。日本ハムの誠意・熱意と先を見る目の素晴らしさが、今見返してもすごいと思うばかり。

冒頭を2023年時点に書き直し、あとは2012年当時の文章を活かしてお送りします。

説得資料の公開に感謝

僕のブログでは、日本ハムがドラフトで大谷選手を指名したことについては所感を述べていました。

花巻東高校・大谷投手が北海道日本ハムにドラフト一位指名された問題で思うこと

合意に同意!花巻東の大谷選手の日本ハム入りを祝福する

こんな感じです。メジャーリーグ入りを熱望していた大谷選手を強行指名し、熱心な交渉の末、合意にこぎつけた日本ハムのチャレンジには、すばらしいと感じ入るばかりです。

そしてこのたび、日本ハムが大谷選手の交渉に使った資料を一部の個人情報を除いて公開してくれました(現在は公開終了)ので、早速熟読しました。

日本プロ野球界は閉鎖的なことが多く、こんな資料がインターネットで公開されるとは、最初思いもよりませんでした。
確かに、日本ハムはオープンなチームカラーというイメージはあります。しかしこのような大切な資料を出してくれるとは。

スポーツ関係のコメントを見ても賛否両論のようですが、少なくともこの文書を公開してくれたからこそ、真剣に「賛」も「否」もできるわけで、まさに日本ハムの英断です。

大感謝です。

感謝の気持ちを持って、一部画像として紹介させていただきながら所感を述べさせていただく次第です。
公開ページの資料から引用しております。

無骨なプレゼン資料の内容を見る

▼公開資料のページはこちら(リンク切れていると思います。Webアーカイブはこちら
ニュース | 大谷選手との入団交渉時に提示した球団資料について | 北海道日本ハムファイターズニュース | 大谷選手との入団交渉時に提示した球団資料について | 北海道日本ハムファイターズ

今回は個人情報など公開が適当でないと思われる一部を除く全文を開示いたします。

 

表紙を含めて26ページ、別紙が5ページ。これの説明で1時間くらいは要したであろう資料です。

この説明がどれだけの説得力を持っていたのかを見ていきたいと思います。

大谷選手の目標の確認

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資料では、大谷選手の夢について確認の意味で定義しています。
1)MLBトップの実力をつけたい
2)トップで長く活躍したい
3)パイオニアになりたい
※単に「アメリカで野球をやりたい」ではない

ここに日本ハムのエゴは出てきません。大谷選手の希望を整理し、その中での現実について説明しています。
たとえば1)のMLBトップの実力をつけたい、ということについて、

NPB経由:フリーエージェント取得までの拘束期間がある
MLB挑戦:メジャー昇格への期間と確率の低さ

と両方の不安面について説明しています。

MLBで成功した日本人選手の特徴

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日本で実績を積んで渡米した選手の成功パターン、日本ではあまり例がないので、韓国で高校野球の卒業後即渡米した選手のパターンを紹介しています。

そのうえで、日本で経験を積んでから渡米しても、十分に活躍の期間があることを説明しています。
FAではないですが、イチロー選手も12年やってますもんね。

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そして、日本プロ野球が全体的に選手を引き上げる仕組みであることに対し、MLBは全体的に集まってきた腕自慢の選手を淘汰す仕組みで運営されていることが述べられています。
野球の実力を向上させるトレーニングをしながら海外生活に慣れていくことのリスクも説明しています。

さまざまな競技の、日本人の海外進出傾向の説明

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さまざまなスポーツ競技において、練習や競技環境、選手層・活躍できる年齢層などについて、多角的に「海外進出」についての
実例を取り上げて検証しています。

そのうえでプロ野球はどうか。

年棒ははるかに劣るけれども、人気や競技としての実力は拮抗、野球をするための環境や生活環境ははるかに日本が優れていることを説明しています。

レーダーチャートでの説明は、至極まっとうなもののように思えました。

若年層が海外に行くのがふつうのスポーツ(卓球など)と日本のお家芸である柔道、野球、モンゴル相撲などの例を取った比較もあり、若いうちから海外に出ていくことに関するメリット・デメリットが説明されています。

Jリーグとサッカー選手の海外進出に関する説明

Jリーグで実績を積んだ選手が海外で成功している例を挙げ、

「日本人には世界と勝負するまでにすべき準備がある」

と結論づけています。
すなわちそれは

競技技術の確立
人としての自立

ということだそうです。
そして、

国内で実績を上げる中で、日本スタイルの、世界に通用する戦い方を身に着ける
18歳から渡米したら、イチローは果たして「イチロー」になれたか?

こう締めくくって結論に向かいます。

結論・総論

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早期渡米と長期活躍の関連性が今のところは確認できない。むしろ日本プロ野球で実績を上げて力をつけることが長期活躍の可能性を高めている

日本の野球は育成環境がトップレベル。早くから海外進出する必要性に乏しい

世界で戦うためには、日本人ならではの戦い方を身に着け、発揮することが賢明

資料はこれで締めくくられています。

大谷選手の目標の確認から入り、野球やその他競技の現状、日本人の活躍のパターンを確認し、野球ならこうだ、という結論を持ってきています。

流れとして整然としていますね。素晴らしい。

感想

この資料、手作り感満載で無骨ながら筋が通った選手思いの資料に見えます。

プロ野球界のこれまでの情報が少ないのでしょうが、ほかのスポーツの傾向と日本球界の優位点である育成力を全面に出すことで、日本ハムでプレーするということよりは日本でプレーすることのメリットを説きました。

一人の青年を説得する際の、情熱と心のこもった資料の一例を、ここに見たような気がしました。
人を口説くのって、テクニックに頼らない情熱が必要なときがあると思うのです。今回の日本ハムの資料は、ネット越しに見ていても作成者の情熱が伝わってきます。

資料の通りに大谷選手が活躍したら、大谷選手はおそらく7~8年しか日本にいないでしょう。
その7~8年のために、球団は大谷選手を全力で口説きに行っているんです。そして契約金1億円、年棒1500万円を準備しました。

その熱を感じ取りながら読んでいました。
個人的にはあっぱれの一言につきます。

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