麻雀というゲームは、人によっては忌むべきギャンブルと思っていたり、ヤクザさんの抗争に使われるものだったりというネガティブなイメージをお持ちかもしれませんが、そんなことありません。
ゲームとしては実に優秀で、
- 初心者でも一発勝負ならプロに勝てる可能性がある
- でも長くプレーしていると、強い人が上位にくるようになっている
という類のゲームなんですね。
情報が完全に開示されている囲碁や将棋・チェスのようなゲームよりは、伏せられた札があるポーカーのようなゲームに近く、隠された札を推測しながら確率・可能性・期待値・現在の得点などに応じて戦略を決定していくゲームなんです。
そんな麻雀を、非常にロジカルに説いているのが本書ですが、このロジカルに説く根拠、過程、表現はすべてビジネスに繋がるといっても過言では無かったんです。真理は、いろいろなものに通じています。
~ 目次 ~
アナログ麻雀とデジタル麻雀
麻雀の考え方は大きく二つに分けることができます。それは、アナログ麻雀とデジタル麻雀。
アナログ麻雀
ツキや流れ、運などを軽視しない麻雀です。また、「言われ続けている」格言を大切にしています。麻雀漫画の主人公は大概こんなタイプ。
デジタル麻雀
残り牌から想定して、確率や期待値を計算しながら、統計学的にチェックしながら打つ麻雀です。過去の格言なども、確率計算などから否定できれば、ばっさり否定します。
本書の著者・とつげき東北氏はデジタル麻雀を極めようとされている方です。
麻雀にとどまらない多くの思考法
この本の書評を行おうと思った理由は、この考え方が麻雀にとどまらず、世の中の様々な事柄や仕事、人生にまで役立つ指標になりうる可能性があると思ったからです。
麻雀のルールに基づいた戦略は、ここは本エントリーでは割愛するのですが、「生きていく」のに役立つたとえが多いんですね。おそらく麻雀が、
常に変化していくなかで先を読みつつ、期待値を求めて価値に行くゲーム
だからだと思うんですね。
たとえばこんな表記があったんです。
麻雀の手役について
手役について、このようなことが書かれています。
「手替わりを待つな」
これは、あと一枚で上がりという状況になったときに、リーチという手替わりができないけれど役が付けられる行為を行うかどうか、ということについて記述しています。手内の牌の入れ替わりを待って、もっと高い役を作れるのではないか、という部分と比較しています。
これを、確率や残り枚数などから、基本的に手替わりを待つな、と述べているんですね。これは、勝負の機微に結び付けることができるでしょう。チャンスが到来したときに、さらに良いチャンスになるまでもう少しまつか、今そのチャンスに喰らいつくか。こういうときの押し引きの参考になると思います。
良形の安い手と悪形の高い手
上がりやすいけれど高得点の期待できない形、上がりにくいけれど高得点の期待できる形を統計学に基づいて解説しています。これも仕事の捉え方などに応用がきくと思いませんか?
目先の収入にはなりやすいけれど高収入・高い満足感を得られにくい仕事
収益として結び付く可能性は若干低いけれど高収入・高い満足感を得られる可能性がある仕事
さあ、どちらを選びますか?と聞かれた場合、麻雀でこういう考え方があるなとわかっていると、応用が利くものです。
押し引き
人と人が勝負するのが麻雀ですから、そこには駆け引きが発生します。本書では、駆け引きも限りなくデジタルに語られます。
和了しにくい安全策か和了しやすい危険策か
これは勝負の押し引きの例に結び付きますね。
- リスクが伴うけれど自分の大きな成功にも結び付きやすい
- リスクが伴わないけれど自分の成功は大きくなりにくい
これ、どちらを選びますか?せっかちな人は「とうぜんこっちでしょ!」と言ってしまうと思いますが、とつげき東北氏は違います。
本書では場合に応じた「最善手」を解説ます。状況によって最善手が違うのは当たり前。その場面を分析して、どういう場合かを読み替えていくことによって、自分が悩んだときに決断できる指標になるように思います。
絞るべきかどうか
相手がほしそうな牌を捨てずに手のうちに入れておくことで、自分の上がりやすさも若干失われるものの(絞った牌がまさに相手のほしい牌だった場合に)相手の進行を遅らせることができる効果を見込める作戦が「絞る」というものです。
本書ではこの絞る行為はバッサリ切り捨てています。麻雀は4人で遊ぶゲームで、絞った自分と絞られた相手だけが損をすることになって、残りの2人が有利になってしまう、という理論です。
これも言い換えが効きます。人の嫌がらせをして自分の益にならないことをすると、自分とその相手だけが沈んで、残りの人が浮上するということですよね。人の嫌がらせはやめましょう。
悪口しか書かないTwitter、ブログをやっている人は、この「絞る」という作業を的外れにやっているに等しいですね。相手を苦境に晒すこともできずに、自分の利益をどんどん損ねてしまっているんですよね。
他家の攻撃に攻めるべきか、降りるべきか
麻雀は上がりを目指すゲームなので、当然他者が先に上がりに近づいているのがわかる場合があります。このときに自分が攻めるか、今回はあきらめて失点を最小限に抑え、次のゲームに期待するか、という部分の説明です。
これも条件によってさまざま。麻雀のルールに基づいた期待値を計算することで、どの場面なら攻める、どの場面なら引く、ということを定義しています。
「このビジネス書は麻雀を例にして他者との駆け引きを説明している」と思いながら読めば、自分の状況で押し引きのルールを作ればよいのだ、ということがわかります。
うまくいかないとき
人生ですから、うまくいかないときってあります。上手くいかないときが長く続く時もあります。
上手くいってる人がスランプに陥る時もあります。そんなときどう立ち回ればいいか。ロジカルに麻雀を考えるとつげき東北氏は、麻雀を通して僕たちに光を与えてくれます。
ベタオリの技術論
4人で上がりを目指すゲームである麻雀は、対局のうちの半分くらいは上がりをあきらめないといけないそうです。その時は自分が相手に振り込まないよう、「ベタオリ」という技術を駆使しなければなりません。
「今回は我慢して次に期待しよう」
というとき、ありますよね。そういうときには徹底的に我慢することを、この麻雀本では教えてくれます。そのターンでは、決して我を出してはいかんのです。
不調の乗り越え方
どうしても運が回ってこない、どうしても結果が伴わない。そういうときにどうするか。
理論など根っこがしっかりしている前提であれば、これまで通りのことをひたすらモクモクとこなすことが一番だと説いています。だいたい、不調になったからってなにか改善策を持ってくるなら、不調になるまえからその改善策を適用すればよいだろう、と。
うん。おっしゃる通りですね。
精神論
精神論、ありますよね。古くは高校の運動部。水を飲んだらたるんでる、とかね。前述の通り麻雀の打ち手にはデジタル派とアナログ派がいて、とくにアナログ派に精神論が多いらしいです。
無意味な精神論は排除しろ
無意味な精神論は、麻雀のゲーム性を自分本位のものに変化させたりレベルの低い一般性に持って行ったりしてしまう、と説うています。
ルールを理解し、データに基づいた正しい戦術を用いてゲームを行うことこそが、次の高い技術水準へのステップアップが図れるということです。
「無意味な精神論」。意識しておきたいですね。
個人的には夢や理想を持って行動することは大好きです。とつげき東北氏の仰ることを踏まえつつ、バランス良くアナログな部分を配分して、自分を創り上げていきたいなあ。
麻雀を数学的に解析することでさまざまな応用に説得力が出てきた
麻雀というゲームはこれまで精神論的に語られることが多かったのですが、インターネット麻雀の登場から、その膨大なゲーム記録を数学的に処理することが可能になりました。ネット麻雀が出てきて、始めて数千、数万という麻雀のゲームのログが取れ、集計できるようになったkらです。
その結果、麻雀を統計的に解析したのがこの本です。そして、この本のおかげで、不確定要素を含むゲームの世界でプレイヤーがどういう戦略・戦術を採ればよいのかという指針の例が見えてきました。
世の中のビジネス書の多くは、その筆者の環境下で書かれたもの。読み手が自分の環境に置き換えていかないと役に立ちません。
であれば麻雀が題材の本書は、その不確定要素を数学的に解決していることの有利さを考えると、自分の生活に置き換えることによる役立ち感はそこいらのビジネス書、啓発書より強いのではないかと思うのです。
麻雀というゲームにとらわれず、応用しながら読んでいただきたい一冊です。