拝啓@odaijiです。
~ 目次 ~
このエントリーの流し読みっ!
コンピューター将棋ソフトはパソコンショップ「ドスパラ」で買えるスペックで動いていた 対局はシーソーゲーム。格闘技でいえば「ベストバウト」だ。 電王戦はプロ棋士の1勝2敗。がけっぷちに。
プロ棋士とコンピューターソフト、共に1勝1敗で迎えた将棋イベント「第2回電王戦」第3局が2013年4月6日に行われました。
電王戦は
2013年3月から行われる人間5人vsコンピューター将棋5本のガチンコ将棋対決「第2回 電王戦」は見逃せないっ!
このように追いかけて共有してきたわけですが、とりわけこの第3局は思うところが多すぎました。いわば名局、ベストバウト。見る人に感動や勝負の素晴らしさ、人間の強さと弱さを教えられた一番だったのです。
対局者は。そして対局に向けての姿勢
第3局のプロ棋士は船江恒平五段、コンピューター将棋ソフトは「ツツカナ」(一丸貴則 氏 作)。
船江五段は詰将棋の回答選手権で優勝したこともある、とりわけ終盤の読みにすぐれた棋士、ツツカナは前年の世界コンピューター将棋選手権で堂々の3位です。
船江五段、第一回電王戦で故・米長邦雄永世棋聖が将棋ソフト「ボンクラーズ」に敗れた際から、翌年の将棋ソフト相手の対局者として決まっておりました。
ツツカナの一丸氏は船江五段に極力現行バージョンに近いツツカナを貸し出します。電王戦の規定ではソフトウェアの貸し出しは義務ではないのですが、一丸氏の船江五段に対するリスペクトと自分のソフトに対する自信、正々堂々とした勝負の態度がそうさせたようですね。
これにより、船江五段は事前に対策を練ってこの勝負に挑むことができました。
序盤から力勝負に持ち込んだコンピューター、無理攻めを誘い優位に持ち込んだプロ棋士
ただしツツカナ陣営、4手目(先手・後手は事前に決められており、ツツカナは後手番)に74歩という少し奇抜な手を指すことを決めていたそうです。
一丸氏曰く。
「4手目74歩は作戦。力将棋(先人の努力によって作られた定跡に依らない戦いの将棋)に持ち込みたかった」
コンピューター将棋は、豊富な実戦例をもとに正確な序盤戦を戦い、より人間との差を出しやすい終盤に持っていくものだと思っていました。この74歩はコンピューター将棋の常識を覆す戦略だと相当びっくりしました。
船江五段曰く。
「実戦例もあるし対人間で指したこともあるので、そう戸惑うことはなかった」。
気を遣う序盤戦が続きます。
ツツカナの無理攻めを誘い、引っ張り込んでカウンターを狙う船江五段
中盤戦の入り口で、船江五段は誘いの隙ともいえる状態を作り出します。将棋はスポーツに例えればサッカーや格闘技に似ている部分があり、相手が攻めで伸び切った形を作ってしまうと、カウンターを仕掛けやすくなります。
コンピューター将棋全般としては攻めの力が強いのが定説であり、この戦法はリスクを伴うと思ったのですが、船江五段はあえて、自分が無理だと判断する敵の攻めを誘いました。そしてそこに踏み込み、切り込むツツカナ。
銀挟みといわれる、相手の主力の攻撃駒を捕獲する形をにおわせ、駒を得しながら、ツツカナが息切れをするのをじっと待った船江五段。
与えられた持ち時間4時間について船江五段曰く。
「序盤1時間、中盤2時間、終盤1時間の配分で使うつもりだった。終盤があれだけ長くなるとは予定してなかったけれど(苦笑)」。
▼中盤戦が始まりました。船江五段のディフェンスが続きます。コンピューターの評価は、ツツカナの若干有利が続きます。
つけられる大差、そしてその挽回
第1回電王戦で故・米長邦雄永世棋聖に快勝したボンクラーズ。
そのボンクラーズにも常時局面を判断させ、スコアとしてネット中継で常時流されていました。
また、ところどころで、ツツカナの形勢判断の画面も中継で流されました。
さて、ボンクラーズの得点ですが、自分が+500点なら、相手は-500点というような表示がされます。サッカーや野球のようにお互いの特典を出すというのではなく、常に合計が0となるような得点表記をします。
人間が見て明らかに有利、という状況だと概ね500点くらい、勝利にだいぶ近づいてきたという状況だと1000点くらい、と言われています。
ツツカナの攻めの中で、一時はボンクラーズが約900点というポイントをツツカナに与えました。
時に大振り、時に精細な攻撃を仕掛けてくるツツカナに、船江五段が間違ったディフェンスをすれば一気に押し切られかねない状況が続いていました。しかし、船江五段はその猛攻を受け切ります。一気に逆転するボンクラーズの評価ポイント、局面もはっきり船江五段が指しやすい状況になってきます。
攻めが切れ、自陣に手を戻し始めるツツカナ。
流れが変わってきたのは、はっきりと見て取れました。
苦しいツツカナが捻りだした妙手・55香
局面は船江五段のリードが続いているように感じました。ツツカナが人間なら
「せっかく優勢だったところを逆転されて・・・」
と落胆してしまい、本来の実力以下の力しか出せない状態になってしまったかもしれません。
しかしツツカナは人間の心を持たないコンピューターです。その場・その場でとにかくベストを尽くします。
まずは自玉の守りを固め、KOを喰らわないような準備を最初に行います。
そして、細い攻めでも、少しでもつなげる、手を紡ぐ工夫をしてきます。
弱者の人間が強者に勝つために行う工夫の様を、コンピューターに教えてもらったような気がします。
一時は船江五段が500点近い評価をされるほどのリードを得ました。しかしツツカナはその場その場の最善手を追い求め続けます。
そして、一歩でも現状からの前進を目指すツツカナは、ついに55香という妙手を編み出しました。
解説のプロも見落としていた手。
対戦相手の船江五段も見落としていた手。
「指された瞬間は意味が分からなかったが、考えていくうちに「なるほどなあ」と思わされた。あのあたりから正直わけがわからなくなった」
と感嘆させた一手。
思えばここから船江五段のミスが出始め、そしてツツカナの正確な指し手が続いたように思います。
ついに端から逆襲した船江五段、しかしそこに落とし穴が?
船江五段は中央からではなく、端から逆襲します。
将棋は大概、王様は左右どちらかの端の方で守備を固めます。
その王様を横から攻めるのではなく、縦から攻める戦略を、船江五段は採用しました。
解説の鈴木八段いわく、端の攻め方に疑問な点があったと。
ここでうまく攻めることが出来たら、ツツカナの猛攻をしのぎ切った船江五段のカウンターがきれいに炸裂した会心譜ができたのかもしれません。
結果的にここでもたついたようで、局面が二転三転してきます。
そして、少しずつ、少しずつ、ツツカナが形勢を取り戻して行きます。
やがてツツカナのプラス領域に得点もうつり、この後逆転することはありませんでした。
勝負事は大概、最後にミスをした人間が負けます。
しかし人間対コンピューターの勝負の場合、終盤にコンピューターがミスを犯すことはほとんど期待できません。
必然的に、人間がミスをしないことが求められてしまいます。
人外の化生に勝つためのヒントが、ここにあるように思います。
最後の特攻まで見せ場タップリ
配色濃厚になった船江五段ですが、ワンチャンスに望みを託します。
ツツカナもコンピューター将棋の特色からか、終盤に安全勝ちを目指さず、最短距離での切りあいを狙ってきます。
終盤で最短距離を目指すのはコンピューター将棋の特色でしょう。
したがって、素人目にはツツカナが危うく見える局面も出てきました。実際に、最後は
「船江五段がツツカナの王様を詰ませたらすごい逆転!」
という局面になり、最後の猛追が始まります。
僕がツツカナの側を持って指していたら、プロのプレッシャーや、その場の雰囲気、将棋の流れからして耐え切れず、逆転を容易に許していたでしょう。
ところがツツカナはコンピューター。終盤の筋は、基本的に読み切っています。
人間の目からは、最後まで猛攻が届いているのか届いていなかったのかわからず、スリリングな最終盤でした。しかし船江五段の最後の猛攻は届かず、おおよそ20時36分ごろ、投了。
184手で、ツツカナの勝利となりました。
大盛り上がりのニコ生。そして終局後
ニコ生の入場者は40万を越え、コメントも60万に届く勢いでした。そして、多くのファンがこの勝負をかたずをのんで見守っていた様子が見て取れました。
終局後数十分で記者会見です。敗北した棋士側にとってはつらい時間・・・。しかし、船江五段も、勝利したツツカナの一丸さんも、相手をリスペクトし、たたえた、素敵な記者会見の回答を進めていきます。
まず、ツツカナに使ったコンピューターですが、パソコンショップ「ドスパラ」で一般に販売しているようなスペックだそうです。
CPUはcorei7の3970x
MEMORYは32GB
一般で購入できるレベルですね。
▼ドスパラ のウェブサイトはこちらです。
パソコン(BTO/自作)・PCパーツ通販のドスパラ≪公式≫
プロ並みの思考を持つコンピューター将棋ソフトを出すのに、特殊なハードウェアは必要なくなりました。
次に、船江五段のコメントをいくつか紹介しておきます。
「対戦相手が決まってからはそれなりに準備ができたが、もっと危機感を持って臨むべきだった」
「今日の対局は大きな経験となった。経験と言ってしまってはほかの棋士に申し訳ないけれど」
「自分の弱い処が出た。技術よりも精神的な問題」
とても悔しそうな船江五段でしたが、つらい質問にも真摯に回答していた印象があります。一部の心無いファンの野次以外は、おおむね「将棋の深さを知った」「第二回電王戦の3局の中で一番よかった」と、素晴らしい戦いだったことを認めるコメントが多数流れていました。
次回は4月13日。プロ棋士は塚田九段、将棋ソフトはPuella α
次回の情報です。
第2回 将棋電王戦 第4局 塚田泰明九段 vs Puella α - 2013/04/13 09:30開始 - ニコニコ生放送
プロモーションビデオはこちらです。なかなかの佳作なので、ぜひご覧ください。
プロ棋士は塚田九段。
棋士紹介:日本将棋連盟
忌憚のない意見をあえて書かせていただければ、今回プロ棋士として登場する棋士の中で、唯一峠を越した方だと思っています。
もともとはA級という、名人に挑戦できる権利をもったリーグにも属していましたし、王座というタイトルも獲得された方。塚田スペシャルという得意の攻めの形をもち、「塚田攻めれば道理引っ込む」とまで言わしめた攻め達磨。
華麗なる実績を持っておられますが、現在の力はどうなのだろう?と思っているファンもまあまあいると思います。
塚田先生にはぜひそのような下馬評は覆していただきたい。
一方のPuella αは、第一回で故・米長邦雄永世棋聖を下した「ボンクラーズ」の現在版です。将棋界にとっては、この対局が直接のリターンマッチとなりまして、塚田先生もかたき討ちに気合が入っています。
作者の伊藤氏は過激な言動で、今大会の悪役も買って出てくれています。「技術的には名人を超えている」とおっしゃっています。
5対5の勝負で、今プロ棋士の1勝2敗。次の塚田九段が敗戦すれば、プロ棋士の負け越しが決まってしまいます。
剣ヶ峰で塚田九段がどのような対策を見せるのか、作戦は?奇襲するのか?真向法からあたっていくのか?
注目の第四戦は4月13日。要注目です。