慶長の役(豊臣秀吉政権、2度目の朝鮮出兵)に赴くことを志願し、2男の熊之介さんには待機を命じた黒田如水さん。
如水さんの長男・黒田長政さんら黒田軍は軍議の中で、総大将の小早川秀秋さんの若さに懸念を抱いています。そりゃそうです。16歳ですからね。
と、とある日の早朝、どこかに出かけようとしている熊之介さん御一行を見つけた長政さんの奥さん・糸さんが「どちらに参られるのですか?」と尋ねると、熊之介さんは「戦の稽古で遠乗りに」と。ところがそれは、朝鮮行の船に乗り込んでしまおうという、典型的な「若気の至り」でした。供には、黒田家の重臣・母里太兵衛さんの長男・吉太夫さんも・・・。
独断で朝鮮行の船に乗り込んだ熊之介さん御一行ですが海が荒れ模様です。あれれ・・・。荒れ模様どころではないようです・・・というところでオープニング。
~ 目次 ~
遭難
黒田家では如水さんの奥さま・光さんに糸さんが謝罪します。熊之介さんが出る日の朝にあったのに止められなかったと・・・。いや、分かりようがないとは思いますけれどね。糸さんは責任を重大に感じてしまっています。
そこへ、熊之介さん御一行が朝鮮への船に乗り込んだ目撃情報も入り、しかもその船が転覆したという情報まで入ってきてしまいました・・・。
目に涙を浮かべる光さん・・・。そして平伏する糸さん。糸さんを励ます光さんですが、自分自身に言って聞かせているように見えます。
朝鮮では母里太兵衛さんが槍の素振り稽古。
その稽古の声が聞こえる所にいる如水さんが読んでいる手紙には、熊之介さんらの遭難のことが書かれていました。
その手紙を読んだ如水さんはほかの重臣を連れて太兵衛さんの元へやってきます。沈鬱な表情で・・・。
手紙を
「心して読め」
と太兵衛さんに渡します。
手紙を読んだ太兵衛さんは
「これは・・・まことでございますか?」
息子を失った悲しみより先に額をこすりつけて
「申し訳ございませぬ!倅がついていながらこのようなことで!」
と如水さんに平伏して謝罪します。家臣としては主君の次男をお守りする役目がありますからね。まず謝罪ということなのでしょう。
「詫びるのはわしの方じゃ・・・。家臣を巻き添えにするとは・・・。頭をあげてくれ」
さらに額を地面に打ち付ける太兵衛さん、さらに謝る如水さん。太兵衛さんは号泣します。
数か月後の黒田家。熊之介さんの残された置手紙を読む光さん。そこに吉報が。糸さんが無事に女子を出産したのです。
「男(おのこ)を産めず、申し訳ございません」
糸さんは落ち込んだ表情で謝ります。
「何を言います。こんなにかわいい子を産んでくれたではありませんか。私たちの初孫です。」
「熊之介が戻らぬのに、男を産みとう存じました」
糸さんはさらに謝ります。新しい命が誕生したけれど、責任を数か月経っても感じ続けているんですね。
「いつまでも気に病んでいると産後に障りますよ」
元気づける光さん。でも光さん自身もまだまだ心が回復していない様子。
「このこが元気に育つことを考えておくれ」
心配
伏見城で花見をしている豊臣秀吉さんと正妻の北政所さん・淀の方。秀吉さんそ、そうとう老け込んでいます。
そこへやってきたのは徳川家康さん。遊びに来たというか見舞いに来たというか。
お庭で遊んでいた秀吉さんの嫡男・秀頼さんもお元気な様子で。
「先だっての醍醐の花見を思い出します。あの花は見事でございました」
「あの花見がこのわし最後の豪遊であったかもしれぬのう」
秀吉さんは寂しげに言いますが
「お戯れを。来年もぜひ殿下に豪華絢爛たる花見を催していただかねば」
家康さんは言葉にそつがありません。
「徳川どの。このわしが死んだら、この世はどうなるであろうのう・・・。遠慮なく言うてくれ」
「何が起ころうとも、われら家臣一同、秀頼君を盛り立てますゆえ、豊臣家は盤石。太平の世が続きましょう。」
そんな言葉を信じたくなってしまうくらい色々老いている秀吉さん、家康さんの手を握って
「わしは秀頼のことが心配で心配で・・・。今の言葉、忘れることなく、なにとぞ・・・なにとぞ・・・。秀頼の事、豊臣の事、お頼み申します・・・」
「殿下、頭をお上げください。それがし、できる限りのことをする所存。お任せください」
「かたじけない・・・かたじけない・・・ごほっ、ごほごほごほっ」
そのシーンを何とも心配しきった顔で見ている北政所さん。
まあ、結果的には「できる限りのこと」をして江戸幕府を建ててしまいましたからね、家康さんは。
夜。秀吉さんの肩をもむ北政所さん。老夫婦の会話です。
「心配じゃ」
「何がです」
「秀頼じゃ。わしが死んだらどうなるか。心配で心配でたまらない」
「徳川どのに、お願いしたではありませぬか」
「何を言うか。あやつは狸じゃ。今はそういっておったが、先はどうなるか分かったものではない」
なんだ、秀吉さんわかってるじゃないですか。
「わしとて、信長様亡きあと、天下を奪い取ったのじゃ」
「あの時は、お前さまには得難き軍師がおりました」
「そうじゃ、官兵衛がおった。官兵衛・・・官兵衛はどこじゃ!」
「お前さまの命で、朝鮮にわたっておりまする」
「朝鮮・・・。官兵衛を呼び戻せ。官兵衛を呼び戻せ・・・」
秀吉さんはせき込み、寝込むようになってしまいました。
見舞い
秀吉さんに呼び戻されて日本に戻ってきた官兵衛さん。まずは正妻の光さんからの挨拶を受けます。先日生まれた糸さんの娘・お菊さんが初披露です。
産んだ糸さんは「お加減がよろしくなく、伏せっておいでです」。
一見平静な光さんですが、熊之介さんを失ったことを全然認められていないようです。
如水さんが昔有岡城に幽閉されたこと。その時人質だった長政さんも竹中半兵衛さんに守られていたこと。そんなことがフラッシュバックしているのかもしれませんが、光さんは光さんで現実を直視できない状態が続いていたんですね。
「死んだのだ!熊之介はもう帰ってこぬ」
如水さんのこの一言で光さん、認めたくない現実にようやく向かいあうことになり、泣き崩れてしまいました。抱きかかえてあげる如水さん。
病床の秀吉さんを見舞う如水さん。
秀吉さんはまったく力がありません。
「殿下」
「官兵衛か」
「は。朝鮮より戻って参りました」
今度は秀吉さんじきじきの呼び戻しなので、処罰されるはずもありません。
「そうじゃった・・・。備中に、おるのかと思った」
寝所にいる秀吉さんのまくらもとに立った如水さんといえば、本能寺の変を速報を如水さんが秀吉さんに伝えにきたときでしたからね。備中・高松城攻めの途中のことでした。
「あのとき、お主はわしに言ったことを覚えておるか?」
「むろんにございます」
「御運が、開けましたぞ。あのとき、お主がそう言わなければ、わしの天下は・・・なかったかもしれぬ」
そういって秀吉さんは手を伸ばし、その伸ばした手をつかんだ如水さんが秀吉さんを起こしてあげます。
脇息に寄りかかってる秀吉さん
「信長様は、このわしの夢であった。あの夜、上様(織田信長さん)が光秀に討たれたとき、わしの目の前は真っ暗になった。ところが、お主は違った・・・」
如水さん、厳しい表情で秀吉さんを見つめます。秀吉さんは続けて
「先の先まで見抜いておった。わしは、天下が欲しかった・・・」
次いで
「わしは、多くの者を殺した。利休(千利休)、秀次(秀吉の甥・豊臣秀次)。このところ毎晩のように皆がこのわしの夢に出てくる・・・。官兵衛、官兵衛よ。このわしは、間違っていたと思うか?」
如水さん、秀吉さんを庇うのか・・・。
「殿下は、信長公にこだわりすぎたのです・・・」
人を殺してしまったことを指しているのですね。
秀吉さんが話します。
「天下人の威厳を保つため、豊臣家の天下をゆるぎないものにするためには、致し方なかった・・・」
秀吉さんがせき込みます。
「官兵衛・・・秀頼を・・・豊臣を・・・頼む。わしが死んだら・・・秀頼を・・・この通りじゃ」
如水さんの手を握り締める秀吉さんですが、
なんと・・・っ!
如水さん、握り締める秀吉さんの手から自分の手を抜いてしまいます。
驚がくの秀吉さん。
「断ると申すか・・・。秀頼では、いかんと申すか!」
「殿下。天下とは、その器たるべきものが治めるべきと存じまする」
「秀頼では、秀頼ではいかんと申すか」
「そうは申してはおりませぬ。されど、秀頼君はいまだ6歳」
「官兵衛・・・お主、天下を狙っておるな・・・!わしが死んだら、豊臣を滅ぼすつもりであろう」
如水さん、無言で秀吉さんの目をじっと見据えます。涙があふれ始める如水さん。
「何故じゃ。おぬしほどの男が、天下を狙わん」
「それがしは、それがしはただ、殿下のもとで世の乱れを治めたかっただけでございます」
「官兵衛・・・。官兵衛は、変わらんのう・・・。いつまでたっても、お人よしじゃ」
秀吉さんは疲れた、休むと言い、如水さんとの会話は終了。ただ、去りゆく如水さんの背中に
「すまなかった・・・。おぬしの思うような天下人にはなれなかった・・・」
まだ目をウルっとさせている如水さんですが、すまなかったと頭を下げる秀吉さんに向かって正座し
「殿下。長らく軍師としてお使いいただき、ありがとうございました」
と平伏します。これが、秀吉さんと如水さんの今生の別れですね。
秀吉さんの寝所を後にしたところで如水さんは膝をつき、泣き崩れます。慟哭。
露と落ち
寝所で眠る秀吉さんのもとには北政所さん。手を握りながら
「あの藤吉郎どのが天下人になろうとは。あれから37年ですよ。お互い年をとりましたね・・・。お前さま、長い間、ご苦労でございました。あとのことは心配せず、ゆるりと休んでください。お前さまとともに生きてこられて、おねは幸せでございました。
北政所様の耳元で秀吉さんは有名な辞世の句。
つゆとおち
つゆときへにし
わかみかな
なにわの事も
ゆめの又ゆめ
名古屋で生まれた秀吉さんですが、辞世の句で気になっていたのは自分が作った町・大阪(なにわ)でした。
慶長3年8月18日、豊臣秀吉、死去。享年62。
動き
おそらく江戸のあたりでしょう。ライフワークとなっている薬づくりをしている家康さんの元に、家臣の井伊直政さんが訪れます。徳川家にとっては吉報の、秀吉・死去、のニュースです。
これまで漢城をあらわにしなかった家康さんですが、両手を合わせたものの初めてニヤリとします。
「太閤は、英雄であった。惜しむらくは、己が死んだのちのことを、もっと考えておくべきであった」
涙をぬぐったような所作をしますが、その眼には涙でなく野望が浮かんでいます。
「勝負に出るぞ」
家康、ついに動きます。
大阪城では石田三成さんが淀の方へ今後の事でご報告。まずは三成さんが朝鮮に行き、出兵している豊臣軍の兵士を引き上げなければなりません。三成さんは三成さんで出兵は望んでいなかったのかもしれませんね。もっとも、朝鮮国や兵士には、秀吉の死を伏せておかなければなりません。
「速やかに兵を引き上げるためには、その差配のため、それがしが参ることとなりました」
「お主がいなくなったらここはどうするのか。天下を狙うものが虎視眈眈としているというのに。これを好機とみて動き始めるに相違ない」
淀の方が声を荒げます。
おいおい、血縁の秀次さんを殺したの誰だよ・・・。
三成さんは「ご心配には及びませぬ」。
「何のために5大老・5奉行を設けたか。政(まつりごと)はこの10名の合議で行うという誓紙(署名した誓約書)を取り交わしました。いかに徳川とはいえ、うかつにうごけませぬ。それがしが留守中も、しかと見張らせまする。」
「怖いのじゃ。徳川家康・・・。あの男は、得体がしれぬ。天下は秀頼のもの。徳川などに、奪われてなるものか」
「それがしの命に代えても、秀頼君・豊臣家をお守りいたす」
三成さんは淀の方に頭を下げます。
「三成、そなただけが頼りなのじゃ」
内部の統制を取らなかった豊臣家、一気に崩壊の危機です。
黒田も
福岡の中津で、如水さんの元に、朝鮮の黒田軍に帰国の命が下ったことが告げられます。
「善助・・・忙しくなるぞ。天下は再び乱れる」
思えば豊臣秀吉が天下を取ったというあたりからわずか10年くらいのこと。
世の中はまだ戦国のにおいが残っています。有力武将がいなくなれば次の天下を狙う人間が出てくることは当たり前のことで、またひと波乱、ふた波乱出てくることになりますね。
さ、次の天下まで如水さんはどのようにうごくのでしょうか。
ドラマの中では、秀吉の奥さんは北政所と淀の方しか出て来ませんが、側室の苛烈な争いもいろいろあったようです